砂漠の薔薇2−1
(1)
砂漠に囲まれた国、マルキアには、どこよりも美しい王妃がいるという。
砂嵐の季節、吹いてきた一陣の風は故郷のコリファイの香りがした。
うわさの王妃こと、コリファイの王子は、憂鬱そうに、白くかすんだ町を見ていた。
「どうした?」
そばによってきた王は、王子にぴたりと体を寄せた。
この男は欲情していないときはないのか、と王子は身も蓋もないことを思った。けれども、ちゃんと話を聞いてもらうためには、とりあえず、欲求をみたしてやるのがてっとり早いと心得ていた。
それに、今は二人の息子であるダナがいなかった。今年16歳になる息子は、コリファイへ、王子の父母、すなわち祖父母に会いに行っていた。なぜだか、ダナはコリファイが気に入って、月に一度は訪れているのだった。
そうして、息子の口から、故郷や父母の様子を聞かされるのは王子にとっては嬉しいことであったが、同時にマルキアになじむことのできない自分を見透かされているようで、王子は疚しい思いを掻き立てられた。
マルキアは賑やかな町であったが、コリファイのような美しい森はなかった。しんとした深い森の奥の、豊かな水をたたえた湖畔にたたずんでいる夢を王子は何度も見ていた。懐かしかったのだ。そんなことを話せば、きっとこの王は、マルキアにも森を作ろうと言い出すだろう。もしかしたら、それは不可能ではないかもしれないが、多くの民にいらぬ苦労をかけることになる。
そっと腰に回ってきた腕に促されるように、王子は自分の思いを振り切って、寝室に向かった。
子供を産んでから、少し貫禄の出てきた王は、子供もかわいがったが、いっそう王子をいとおしんだ。どうやら、自分が出産する羽目になったことが、王子の策略だとさとったらしいのだが、細い王子の腰で赤ん坊を産ませて、心配するよりも自分が産んだほうがいいと、一人で納得していた。そればかりか、そんな案を思いついた王子の賢さを褒め称えるほどの、心の広さをみせた。
つまりは今だに、王子にめろめろなのである。
王子にとって恥ずかしいのは王が、王子の体のすみずみまでいとおしいと思い、触れたい、見たいと求めてくるからである。
明るい場所で、体を開かれ、丹念に愛撫する手に翻弄されながら、こればかりは嫌とはいえなかった。なによりも、嫌がる言葉を体が裏切った。
王のひざの上にうつぶせになった体を乗せられ、まるで観察するかのように、見られていた。王は好奇心いっぱいで、何度抱いても飽きない王子の、体の奥を知りたがった。どうすればもっと喜ばせてやれるのか、声を聞かせてもらえるのか、とろけるような快感にあえぐ王子の様子を見られるのか、そうして、熱く包み込む内壁で快感を得られるのか。
そればかりを思っていた。
つまるところ、王の興味は国の政と、王子と過ごす閨のこと以外にはなかったのである。
そんな王をあほだあほだと思いながらも、王子はいとおしんだ。
何しろ、もう、若くて美しいとは言えない年齢になっていた。それなのに、王は王子一人に夢中だったのである。
「ここが、良いのか?」
そう聞く王の指が王子の中を前後していた。片方の手は、王子の前を軽く握り締めて、柔らかな刺激を与えていた。ゆっくりと這い上がる快感に王子は息をつめた。こういうときの王は、しつこくて、嬲るような愛撫を長々と続けるのが常だった。それに乱されることがわかっている王子が嫌がっても、このときばかりは聞いてはくれなかった。
どこかで、王子がそれを望んでいることに気づいているのかもしれなかった。
余すところなく見られていると思うと恥ずかしかったが、その恥ずかしさも刺激になった。
王の腰の上でさらに足を開かれ、王子はほてった顔をシーツにうずめた。まるで、何かを探すかのように、王子の中を動き回る指が、熱を生み出し、王子の腰にゆるゆるとした快感をためた。時折その指が、刺激の強い場所に触れると、王子は声を殺しながら、腰をびくっと揺らした。そんなとき王は、たからものを探り当てたように嬉しそうな顔をして、王子の快感の源に指を擦り付けてくるのだった。そうして王子の声を聞きたがった。王子が唇を開いて声を上げるまで、その嬲りは容赦なく続いた。
「あっ……」
かすかに漏れた声に煽られたように、王の指の動きが激しくなる。抜き差しされる束ねられた指先が、王子のイイトコロをかすめる。単調な動きが、快感の大きな波を引き寄せ、王子の下腹を満たす。腰から下が、自分の物ではないかのように、熱く淫らにうごめく、見知らぬ生き物になったようだ、と王子は感じる。とんでもなく恥ずかしいのに、もう、王にされるがままである。
押し開かれ、嬲られ、指を突っ込まれ広がった粘膜のふちをなぞられ、擦れるほど声を上げた。
「サリア、サリア……」
王は、父にしか呼ばれたことのない王子の真名を呼んだ、そうされると、胸の中にぬくもりが点った。肉欲だけでしかないような行為に、愛という理由が生まれた。
それが真実だと告げるように、王の手はいつも優しく、王子を追い上げた。
不意に王子は腰の下に固いものがあたるのに気づいた。
それはこらえている王の欲望であった。
王子はそこに腰を擦り付けた。自分を支えるためにだけ使っていた腕を、のばして、無理な体勢のまま、王のものを手の平でなぞった。
男のモノをいとおしいなどと思うことがあろうなど、ついぞ考えたことがなかった。
けれども、いままだ窮屈な衣服のなかで自己主張しているであろう王のものを、王子は丁寧になぞった。その形を確認するように、指先で触れた。
王が動いた。まとっていた衣服をずらして、むき出しのものを王子は握らされた。
王子はゆっくりと息を吐き出した。芯の通ったものの生々しい感触に、ため息が出た。
欲しかった。
すると王は、王子の後孔から指を抜いて、細い振動する棒を差し込んできた。
王子は自ら体勢を変えると、王の足元に跪いた。
自分が握っていたものに唇を寄せた。ほかの誰にもしたことのない行為を、王子は覚えた。
王の指の変わりに、振動する棒で腹の中をえぐられ、感じさせられながら、王のものを銜える。
王宮の牢獄で、かつての宰相にあんなことをされて、道具を使って、体の中に施される行為など好きになるはずもないと思ったのに、王の指が届かないこの時間を自分の体がさびしいと訴えるのだ。それでも、じぶんからも王のものを愛してやりたかった。
一方的にされるだけの行為は嫌だった。
(2)
******
なんどか閨の行為を重ねるうちに、王は無理のない太さの蠕動する棒を用いるようになった。最初試されたときは、そっと擦り付けるだけで、えんえんともどかしい快感に、上り詰めることもできないままに、鳴かされた。
耐え切れずに自分から、後孔をすりつけ、腰を振り、とうとう、
「入れてください」
とまで口にしたのである。
「これを入れて欲しいのか?」
とわざわざ王は聞きなおして、王子にひどく恥ずかしい思いをさせた。
そのうえ、これは、そういう風に用いる道具ではないから、中に入れたら出なくなってしまうと、説明し始めた王を王子は危うくひっぱたくところであった。
つまりは、取り出すための紐のようなものをつけなくては、というわけだ。
その説明の間、えんえんと、後孔をそれで嬲られ続け、王子は、擦れるほど声を上げ続けた。
こんなときの王の責めが、わざとなのかそうでないのかわからないでいる王子が、返事も出来ないでいるうちに、王は、その棒を王子の後孔に差し込み始めた。すさまじい快感にのたうちながら王子は、取り出せないと言ったのに、なぜ入れてしまうのだろうかと不安になっていた。けれども、やめてくれと言えないほど、溺れきっていた。
王は、そのままでは、自分のものを入れられないからと、王子の足の間に挟みこんだものを動かした。いわゆる素又というやつである。それなら、最初から、自分のものを入れてくれればいいじゃないかと、王子は泣きたくなった。(いや、すでに泣いていたが)
その間も、体の奥で怪しく動くものが、もどかしい快感を生み出していたのだ。
王がとりあえずの欲求を満たしたあとも、王子は達することができずに、もだえていた。
自分のものに自分で触れるなど、王の前ではしたくなかったのだ。
「良いのか?」
鈍感なのか、意地悪なのかわからない王は、そのままの王子のむき出しの腰を撫ぜた。そうされるだけで、腰全体にしびれるような快感が生まれた。
「良いのか? そんなにそれが良いのか?」
そう聞く王は、自分のものより、それが気に入った王子をとがめているようで、やはり憎めないのであった。
「王様のものが欲しゅうございます」
「カハリじゃ」
「カハリ、カハリお願い」
自分の名を呼ぶ甘い声に目を細めながら、王は、王子の後孔に手をのばした。
それからが大変であった。王の言ったとおり、紐もついていない棒をとりだすのはたいへんだったのである。
王は、王子の中を延々とかき回し、棒を追い掛け回した。
その晩、王子はこの王が、あの宰相などより、ずっと鬼畜だと知ったのである。
王の指は棒を追いかけては取り逃がし、そのたびに蠕動する棒が王子の内壁に更なる刺激を与えた。その上王の二本の指が、王子の体の中を嬲りまわした。それなのに、結局王は、棒を取り出すことが出来なかった。
王子は、快感と疲労とで、半ば失神したようになり、ふと意識を取り戻すと、まだ、王の指が自分の内部を動いているのを感じた。それから、そこに立っているのが王だけではないのに気づいてぎょっとした。臣下の一人が、真っ赤になった顔を背けながら、王子の双球を押し開いていた。
王は、自分ひとりでは無理だと助けを呼んだのである。
王子はうつぶせのみっともない格好で、恥ずかしいところをあらわに押し開かれた姿で、2人の男の前にいた。
「や、やめてください!」
うろたえる王子。
「申し訳ありません。申し訳ありません」
「こら、はなすでない」
手を離そうとする臣下を王がしかった。
「もう少しじゃ」
王の手が、蠕動する棒をとらえかけていたが、それは同時に、王子の一番イイトコロに押し付けられていた。臣下の前で達するわけにはいかない。それはあまりに恥ずかしいと、なんとか、こらえようとするが、快感を逃そうとすると、もじもじと尻を振ることになる。
「動かしたらとれないであろうが」
あくまでまじめに、棒を取り出そうとする、王の声に王子は泣きたくなった。
こんな辱めをなぜ受けねばならないのか?
「やめてください」
「なにを言う。そもそもそなたが入れて欲しいと言ったのではないか?」
臣下の前で言われたその言葉に王子が殺意を抱いたとしても、仕方あるまい。
その上、
「ああ、取れたぞ」
二本の指で、内壁をこするように棒が取り出される、その刺激に耐えられず。
「あ、あああ!」
王子は声を上げると、シーツを汚しながら、達してしまった。
「ああ、イッてしまったのか? 続きをするから、シーツを代えてくれ」
件の臣下にそういった王は、一瞬で理性を取り戻した王子のパンチをくらって、ベッドに沈んだ。
「シャワーを浴びる。シーツは自分で代えるからほっといてくれ!」
そう言い放った王子は、まだ、真っ赤な顔をしている臣下を追い出した。
それから一ヶ月の間、王は王子の体に指一本触れさせてもらえなかった。
という、経緯がある。
(3)
******
ゆえに、いま、王子の中に差し込まれた棒には、取り出すための紐がついている。
それを体に差し込まれながら、王子は王のものに唇を寄せていた。自分ばかりがされているような気がして、律儀な王子が最初は申し訳ないような気持ちで始めた行為であったが、王の喜ぶ姿を見ると、思いがけず、そうしてやることが楽しいと思うようになった。
現に今も王は、優しく王子の髪を撫でていた。首筋や背中に触れられると、そこから火が点るように快感が広がった。王子はそれに気を逸らされてしまわないように、急いで王のものを口に含んだ。入りきらないものの先端を吸い上げ、そっと舌でなぞる。
実は上手とは言えない口淫は王にはくすぐったいばかりだったのだが、王子の口が自分のものを銜えているのをみると、王はひどく興奮するのだ。喉の奥にまで突っ込みたいのをこらえて(一度やって、けり倒された)ひたすら気持ちのいいふりをしていた。
なにより、それほど好きでもない行為を一心にしてくれる王子が愛おしかった。
数知れない男や女と関係をしてきた王であったが、気位が高く、誰よりも美しい王子の、いつもは慎ましく閉じた口に、自分の性器が銜えられていると思っただけで、興奮する。ましてや、見てしまったが最後、押さえが効かなくなりそうで、なるべく見ないようにしている。けれどもそれも限界であった。
王子は、自分の口の中で、王のものがぐぐっと質量を増すのを感じた。
直後に、体が反転した、と思ったら、蠕動する棒が取り除かれた。
そうして熱いもっと大きなものが、息を吐き出す間もなく、体の中を突き進んできた。
「ああっ!」
こらえきれずに、声を漏らした。ぐいっと突き上げてきたものが違和感をもたらしたのは一瞬で、すぐに、密着した部分から熱さが広がった。王であろうが、王子であろうが、閨ですることは、獣と変わりがないのだと、王子はいやと言うほど知らされたが、こうして一つにつながると、それだけで、快感とは違う喜びを感じるようになっていた。
いまだに意地っ張りな魂は、『顔が見たい』という一言をためらわせた。けれども、王は自分が王子の顔を見たいがために、最後のときは必ず、正常位を選ぶのだった。
熱いものを打ちつけ、滑らかな王子の背中を唇でたどりながら、王は王子の腿や股の内側に触れた。感じやすくなった王子の体が、そのたびにびくっと震えた。シーツに顔を埋めて、こらえている声を引き出したいかのように、王はぐいっと王子の体を引き寄せ引き上げた。持ち上げられるような姿勢のまま、体の奥深くをさし貫かれ、暴かれて、王子は、嬌声を上げた。熱さが体を侵食した。溶かした。
内部に、王のものがぐっと突きつけられ、じんわりとほとばしりを感じた。同時に王の伸ばした手にすりあげられて、王子も精を放った。
休む間もなく、つながったままの体を反転させられ、強い刺激に、王子は声を上げた。王をののしる気力も残ってはいなかった。
それがわかっているかのように、王は、優しく王子を腕の中に抱きこんだ。
一つになったままで、ゆるゆると快感の名残を味わっているひと時を王子が好きなのだと理解していた。
それから、王子の息が平静になった頃再び王は、腰を使い始める。
惚けたような王子の表情を楽しみながら、また新たな快感の源を攻め始める。
「あっあっ……」
声を漏らす小さな形の良い唇の感触を楽しみ。快感にゆがむ表情の妖艶さに息をのむ。
味わっても、味わっても、王が王子に飽きることはなかったのだ。